イヌマキの果実っぽい何かはイチゴっぽいもの
イヌマキは裸子植物です。裸子植物は定義上果実は実らないはずです。でも果実みたいなのが実ります。これは何でしょう。
イヌマキとは?

イヌマキ Podocarpus macrophyllus は、裸子植物マツ綱ナンヨウスギ目マキ科マキ属の常緑性の高木です。高さは成長すると20メートルほどになります。国外では、中国南部、台湾に分布し、本州の房総半島以西から南西諸島の照葉樹林などに生育します。潮風に強く海岸に近い場所にもみられます。日陰でも育ち、古くから生け垣や庭木、防風林や防潮林などに利用されてきました。
雌雄異株で、雌株は、4月から6月頃に花を咲かせ、8月から12月頃に種子ができます。種子は毒を含んで食べられませんが、種子の基部の赤もしくは赤紫色に肉質化した部分は、甘みがあり食べることができます。
裸子植物なのに果実を作る?
イヌマキは、上記の通り裸子植物です。私たちが日頃果物として食べているカキやブドウ、モモなどは、被子植物の果実です。被子植物は、胚珠(成熟すると種子になる)が露出している裸子植物とは異なり、胚珠を子房の中に包み込む植物です。受精後、子房は成熟して果実となり、その中で胚珠は種子になります。つまり、厳密な意味での「果実」は、子房をもつ被子植物に特有の構造であり、裸子植物には存在しません。
イヌマキの食べられる部位は何?

では、イヌマキの種子の下にある、赤くて一見果実のように見える部分は何なのでしょうか。これは、雌性の生殖器官の基部にある構造が発達して肉質化したものです。この構造は花托(receptaculum)と呼ばれます。花托とは、一般には被子植物の花で、ガクや花びら、雄しべ、雌しべなどがつく土台となる部分を指します。イヌマキには被子植物のような花はありませんが、雌性生殖器官の基部にあるこの構造が、形態学的に花托と呼ばれているのです。イヌマキの赤い部分は、この花托が肉質化したものです。
ちなみに、私たちが食べているイチゴの赤い部分も、定義上は果実ではありません。イチゴでは花托が大きく肥大して、あの赤く甘い部分になります。イヌマキとイチゴでは植物としての構造は異なりますが、どちらも果実ではなく、花托にあたる部分が肉質化しているという点は共通しています。
別々の進化が生んだ「果実」のような構造

イヌマキの肉質部は鳥類などに利用されることが知られています。被子植物は、果実が種子を包み込む構造になっている一方で、イヌマキは、種子と肉質部が2つに分かれます。しかし、肉質部が種子の基部にあるため、肉質部を取るためには必ず、種子も一緒に親木から摘み取らざるを得ない構造になっています。裸子植物であるイチョウの銀杏も種子の外側に肉質部があり、タヌキなどの動物が利用することや、彼らが種子散布に寄与する可能性を示唆する報告があります。

動物に利用されやすい肉質の部分をつくり、それを利用した動物によって種子を運んでもらうという戦略は、被子植物だけが発達させたものではありません。裸子植物でも、種子の周囲に肉質の構造をもつものが複数の系統で知られており、こうした構造は進化の過程で何度も独立に獲得されたと考えられています。現在見られるこれらの構造は、被子植物と裸子植物がそれぞれ別の進化の道をたどりながら、異なる構造で同じような機能を果たすようにたどり着いた結果であると考えると、とても興味深く感じられます。