美しい糞虫
糞虫と聞くと、ファーブルが研究したことでも知られるフンコロガシを思い浮かべるかもしれません。ただ、残念ながら日本で見られる糞虫は1種を除き糞を転がしません。しかし、宝石のように輝く糞虫なら見ることができます。
オオセンチコガネとは?

オオセンチコガネ Phelotrupes auratus は、コウチュウ目センチコガネ科オオセンチコガネ属の昆虫です。東アジアに分布し、日本では北海道から九州で見られます。成虫、幼虫ともに、ウシやシカ、ウマ、タヌキなどの動物の糞や動物の死骸に集まります。オオセンチコガネは特にシカやウシなどの草食動物の糞を好むといわれています。ちなみに、センチコガネの「センチ」は、トイレを意味する雪隠(せっちん)の転訛形と考えられています。
動物の糞で幼虫を育てる

実験下でウシの糞を使った観察では、メスは深さ15cmほどのトンネルを作り、その中に直径1.5-3cm、長さ4-8cmほどのソーセージ状の糞塊を用意し、そこに卵を生んだことが報告されています。また、オスも糞の運搬やトンネルの入口での防衛を行ったりすることが示唆されています。幼虫はトンネルの中で親が用意した糞を食べて育ちます。糞を地中に運び込むことで、幼虫が鳥などの天敵に食べられたり、他の昆虫に寄生されたりするリスクを下げていると考えられます。
いつみられるの?

オオセンチコガネは春から秋にかけて見られます。滋賀県と京都府の県境にある音羽山で行われた観察では、5月初旬頃から越冬成虫と思われる個体が出現しますが、6月中旬頃には出現個体数は減り、8月頃に新成虫がみられるようになりはじめ、9月頃にもう一度出現のピークがみられることが報告されています。
地域ごとに異なる体色

オオセンチコガネの特徴は、なんといってもその美しい色です。興味深いことに近畿地方では北部を中心とした地域では赤色っぽい色、南部では青色、その中間では緑色の個体が多く見つかります。このような地域による色彩変異がどうしてあるのかについて、生態学的観点からはよくわかっていません。しかし、近年の研究によりその色彩変異が遺伝的に決定されており、ほんの600年ほど前に赤色のものから青や緑のものが出てきた可能性が示唆されました。つまり近畿地方では約600年より前はオオセンチコガネは、赤色の個体しかいなかったのではないかと考えられています。
【参考文献】
保賀昭雄(1986)オオセンチコガネ(ミドリセンチコガネ)の生態研究(第3報告):宝国際環境財団環境調査研究報告書 1986年度. Available at: http://www.takara.co.jp/environment/fund/pdfs/s61report03.pdf .
高木俊人, 荒木祥文, 兼子伸吾 (2025) 近畿地方のニホンジカとオオセンチコガネの遺伝構造から読み解く人間活動の歴史的な影響. 地球環境, 30(1): 53–62. Available at: https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000007082/D-140.pdf .
戸田萌子, 熊野了州(2022)オオセンチコガネのオス親は育児に参加するのか?. 第69回日本生態学会大会 講演要旨 P1-075. 日本生態学会. https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/69/P1-075.html .