皆の「ムカデ投稿」が解き明かす、肢の色の謎
ムカデ類の2種・トビズムカデとアオズムカデには、赤い肢をもつタイプと黄色い肢をもつタイプがそれぞれ存在することをご存じでしょうか。今回、いきものコレクションアプリBiome(バイオーム)およびiNaturalistに寄せられた写真記録を活用した研究から、赤色タイプと黄色タイプの分布パターンが、種間で大きく異なっていることが明らかになりました。
あなたのイメージするムカデの肢は何色?
「怖い」「不気味」といったマイナスイメージで語られがちなムカデですが、その先入観を少し脇に置いて観察してみると、生物としての面白い謎が見えてきます。
世界中に分布するオオムカデの仲間は、同じ種であっても、個体によって体色が大きく異なることがあります。日本に生息するトビズムカデやアオズムカデも例外ではなく、同じ種の中に、肢が黄色い個体と赤い個体が見られます(図1)。あなたが今までに見てきたムカデの肢は何色だったでしょうか?

出典:Uno and Iyoda (2026), Ecology and Evolution, Fig. 1. https://doi.org/10.1002/ece3.73882(CC BY 4.0)
近縁の二種に同じような色彩変異が見られるなら、その背景には共通する仕組みがあるかもしれません。トビズムカデもアオズムカデも非常によく似た生態をしているため、もし両種で同じ仕組みが働いているなら、赤い個体と黄色い個体の地理的な分布にも、共通した傾向が見られると予測されます。しかし、この予測を確かめるためには、広い地域から多数の観察記録を集める必要がありました。
全国のムカデを、どうやって調べる?
ムカデは身近な生き物のように見えますが、いざ調査のために探そうとすると、意外と簡単には見つかりません。オオムカデの仲間は、母親が卵や幼体を1か月以上保護し、その後の成長も比較的ゆっくりとした、繁殖に時間のかかる生き物です。そのため、地域によっては個体数が多くなく、石や倒木をめくっても、一匹も見つからないことがよくあります。
そこで研究チームは、BiomeやiNaturalistに投稿された写真を活用しました。ただし、実際のムカデには赤と黄色だけでなく、オレンジ色やその中間に見える個体も存在します。さらに、写真では撮影条件によって色の見え方が変わってしまう場合もあるため、本研究では、こうした曖昧な個体を無理に分類せず、写真上で明瞭に赤色または黄色と判断できる記録だけを解析対象としました。
こうして得られた記録を地図上に整理し、赤型と黄型の分布を全国規模で比較しました。さらに、各地点の気温や降水量などの気候データを用いて、それぞれの型が生息する気候条件も比較しました。
また、写真を確認する過程では、ムカデがほかの動物を食べている場面や、反対にムカデが食べられている場面も見つかりました。そこで、これらの記録から餌や捕食者を同定し、各色彩型で違いがあるかを調べました。写真記録は、生き物の分布を調べるだけでなく、ほかの生き物との関わりである「生物間相互作用」を明らかにする手がかりにもなります(Uno 2024、2026)。
同じ色でも、二種で異なる分布
約3,000件の写真記録を地図上に整理したところ、トビズムカデとアオズムカデは、よく似た赤型と黄型をもつにもかかわらず、その分布のしかたは大きく異なっていました(図2)。

出典:京都大学プレスリリース「赤い足と黄色い足のムカデがいる理由に迫る」、2026年7月2日
トビズムカデでは、赤型と黄型が日本各地で広く共存していました。ただし、その割合には地域差があり、両型が生息する気温や降水量などの気候条件はわずかに異なっていました。また、赤型と黄型では捕食者の構成も異なっていました。二つの色の分布パターンや共存には、気候や捕食者が関係している可能性があります。
アオズムカデでは、黄型が広い地域に分布していたのに対し、赤型は主に関東から東海地方の太平洋側に集中していました。さらに、赤型が生息する気候条件は黄型の範囲内に含まれ、餌や捕食者の構成にも違いは認められませんでした。トビズムカデの色彩変異については1970年代にも報告されている一方、私たちが知る限りアオズムカデの色彩変異が記載されるようになったのは2000年代以降です。そのため、赤型は近年になって日本に出現するようになった可能性があります。今回明らかになった分布パターンは、赤型が比較的最近になって関東・東海に出現した、と考える辻褄が合います。赤型の由来を理解するには、遺伝子解析による研究が必要です。
つまり、外見上はよく似た赤と黄色の変異であっても、その分布を形づくり、維持している仕組みは、二種で異なる可能性があるのです。
嫌われ者を、知らないままにしない
オオムカデの仲間は顎肢に毒を持ち、咬まれれば強く痛みます。そうした特徴から、ムカデを見かけたら、不安や恐怖を感じる方も少なくないでしょう。また、こうした印象から、ムカデは「害虫」として扱われ、家庭内では駆除されてしまうことが多い生き物です。
しかし、ムカデは人を積極的に襲う生き物ではありません。多くの場合、自分の身を守ろうとして咬みついているに過ぎません。
私たちは、身近に暮らすムカデについて、まだ驚くほど多くのことを知りません。どのような環境を好み、地域ごとにどれほどの個体数が生息しているのか、また、増えているのか減っているのかも。私たちが気づかないところで、ある地域では、姿を消しつつある可能性もあります。
人間にとっては、危険で「害虫」と捉えられがちな生き物でも、生物多様性の一部として、自然界での役割があります。だからこそ、その両側面を理解し、ただ「危険だから」と駆除するのではなく、人の生活空間への侵入を防ぎ、咬害の危険を減らす対策をするなど、人とムカデの双方にとって適切な防除方法を考えることが大切です。
そうした「知る」を積み重ねる中で、一枚の写真を残すことは、大きな意味を持ちます。いつ、どんな場所に、どんな生き物が暮らしていたというリアルなデータを未来に残すことにつながるからです。
嫌われがちな生き物だからこそ、知らないまま排除するのではなく、観察し、記録し、理解する。その一つひとつの行動が、人と野生生物が適切な距離で暮らすための第一歩になるのではないでしょうか。
元論文
・DOI:http://dx.doi.org/10.1002/ece3.73882
・タイトル:Untangling Colour Diversity: Ecogeographic Patterns in Two Scolopendra Species Revealed by Citizen Science
著者:宇野良祐・伊與田翔太
掲載誌:Ecology and Evolution
参考文献
・DOI:https://doi.org/10.20695/edaphologia.115.0_49
・Uno (2024) Predators of Japanese Myriapods ̶ Survey using literature, social media, Web, and mobile application, Edaphologia. 115: 49-65.
・DOI:http://doi.org/10.7717/peerj.20482
・Uno (2026) Feeding ecology of scolopendromorphs: integrating a global literature review with Japanese citizen-sourced data, PeerJ. 14: e20482.